2023/12/28

Raul Marrero / Romantico y Salsero ('77)

A1AmigoB1La Rica Vida
A2Adorada IlusionB2En Mi Despedida
A3Lo Que Mas QuieroB3Tenias Que Tocarme a Mi
A4Quiero Volver a Mi TierraB4No Me Conviene
A5PenelopeB5A Primera Vista
 ワイシャツの襟と、はだけた胸。この三角形が、どういうわけか紙ヒコーキを思い出して童心に帰ってしまいます。
 ポケットからのぞく赤いハンカチが洒落てますね。見るからに遊び慣れたおっさんといった風情。露出している胸元がほとんど日焼けしていませんので、おそらく夜行性の遊び人なのでしょう。

 本作はA面とB面で、まるっきり雰囲気が異なります。正反対と言ってもいい。
 A面は穏やかでアダルトな、イージー・リスニング・サルサ。
 B面は激しくて攻撃的な、ワッショイ・バッチコイ・サルサ。
 アナログ・レコードならではの「ひっくり返す」という特性を用いれば、各面ごとにテーマを定めてアルバムにまとめることができるんだね。こればっかりはCDにゃムリですわ。

 LPとCDは、やはり別物と言わざるを得ません。カギは「ひっくり返す」という能動でしょう。

 ところでLPのアルバムをCD化する際、2枚のLPを1枚のCDに収録することってありますよね。いわゆる2in1CDってやつですよ。
 2in1は資源を無駄なく活用しているし、とてもお買い得感がある反面、何だかありがたみが希釈されてしまうような気がしませんか。例えばこれ。

 フレデリック・フェネルのコール・ポーター作品集と、ガーシュウィン作品集、これらを1枚にまとめてしまいました。
 高音質にして好演奏。なのにときめかないのはなぜ?
 本来2つのアルバムなのに、CDにぶっこんだら区切りがなくなってしまいます。全24トラック。計73分。パンパンだぜ。
 12曲目と13曲目の間が境目になります。でもCDプレーヤーに入れて再生すると、そんな境目まるで何もないかのように、ノンストップで淡々と連続再生します。
 よちよち歩きで道路を渡っているカルガモの親子をブレーキも踏まずにひき殺すダンプカーのような配慮のない荒っぽさで、2つのアルバムをシームレスに合体させてしまうのです。

 LPの「ひっくり返す」に該当するような、こちらから介入する動作がないと、本来まるっきり別個なはずの2つのアルバムが、際立つことなく丸められてしまうわけ。
 私は2in1CDをいくつか所有しています。どれもこれも何だか平べったい印象なのは、たぶんそういうことなんだろうなあ。

 ひっくり返さないこと、がリスナーの印象を大きく左右してしまいかねないのです。
 ま、これについては2in1CD特有の問題というより、CDというメディアの特性と言えましょう。
 LPのアルバムをCD化すると、A面とB面の境目をノンストップで連結していまいますからね。

 洗濯機で例えるとわかりやすい。
 LPは、自分から行動しないと先に進まない2槽式洗濯機。
 対するCDは、何もしなくたって終わってしまう全自動洗濯機。
 どちらが洗濯している自身を強く意識されられるか。言うまでもなく、2槽式ですよね。

 ひるがえってLPをいま一度考えてみる。
 この「ひっくり返す」仕様はLPの宿痾です。避けては通れません。じつに面倒くせえ。
 したたかな作り手たちは、これを利用しようとします。どうせ不可避ならいっそのこと、アルバムを演出する道具にしてしまおう、こう考えたわけですな。何とも前向きな、たくましい発想です。

 本作のように、単純にテーマ別でAB面を分ける、というのもアリでしょう。『ナイト・アンド・デイ』もそうかな。A面とB面のテーマが違うことを、リスナーは「ひっくり返す」ことで体感します。

 まるで舞台の暗転のように、雰囲気をガラリと変えることだってできます。動から静、または静から動。あるいは陽から陰、陰から陽。急から緩、緩から急だって自在です。このあたりのことは以前『シルク・ディグリーズ』の項にて書きました。

 A面でボケて、B面でツッコむ、という高度な芸当さえも可能。『ハイ・アドヴェンチャー』が好例でしょう。

 作り手はもちろん、リスナーが「ひっくり返す」ことを想定して各面を構成するわけです。「ひっくり返す」ことで、作り手の意図した演出が完成します。
 リスナーは「ひっくり返す」行為を通じて、アルバムに参加することになるのです。次工程はお客さまだ。
 だからあなたも、アルバムの一部になれるのです。そこのあなた。そうあなたです。LPを手にすれば、あなたが音楽です。5人目のビートルズだって夢じゃない。

★★★

A1, A2, A3, A4, A5 Produced and Arranged by Joe Cain
B1, B2, B3, B4 Produced by Rene Lopez
B5 Produced by Andy Kaufman
B1 Arranged by Edy Martinez
B2, B4 Arranged by Ray Coen
B5 Arranged by Louis Small

Yomo Toro: Quatro Guitar
Vitin Paz, "Bomberito" Zarzuela, Ray Maldonado: Trumpets
Renaldo Jorge, Lolly Bienenfeld: Trombones
Frankie Malabe: Conga
Ray Romero: Bongo
Jose Rodrigues: Trombone
Guilermo Edgehill: Bass
Ray Coen, Edy Martinez: Piano
Louis Small: Organ
Roberto Torres, Vitin Aviles, Menique, Esther Aviles: Coro

Recorded at Latin Sound Studios N. Y. C. on 16 Tracks
Engineer: Fred Weinberg, Jon Fausty
Photography: Dominique
Art Direction: John Dentato
Production Asst.: Teddy Ortiz Acosta

Executive Producer: Joe Cayre
Cover Concept and Production Supervision: Joe Cain

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