2023/09/03

The Oscar Peterson Trio / Walking the Line ('71)

A1I Love YouB1Teach Me Tonight
A2Rock of AgesB2The Windmills of Your Mind
A3Once Upon a SummertimeB3I Didn't Know What Time It Was
A4Just FriendsB4All of You
 星飛雄馬の相棒が伴宙太であるように、オスカー・ピーターソンの女房役は、なんてったってレイ・ブラウンだと思うのです。モダン・ジャズ界指折りのバッテリーと言えましょう。
 それがMPS時代になると、ブラウンはピーターソンから去って行きます。まるで中日へ移籍した伴宙太のように。

 というわけで、本作にレイ・ブラウンはいません。ベーシストは、ジョージ・ムラーツという人。東欧からやって来た新星です。
 ピーターソンはムラーツと初顔合わせではないものの、ブラウンを相手にしているときのようなのびのび感はあまり感じられません。借りたクルマを運転しているような、ちょっと気を遣って遠慮している雰囲気があります。
 やはり伴の構えたミットでないと、おもいっきり投げられないのでしょうか。

 A4の後半。とても目まぐるしいですよね。
 この場面、ブラウンとだったら、あうんの呼吸で完璧にキメてくると思うんだ。しかし日の浅いムラーツとはそこまで以心伝心とはいかないようで、音を合わせるタイミングがじゃっかん雑な印象を受けます。

 おそらくピーターソンは、ムラーツと末永く添い遂げる気はなかったのではないかなあ。だから「びっしびし指導してパワハラ扱いされたら面倒だな」くらいの気持ちで臨んだと。そのへん正妻の座にあったブラウンと、言うなればweekend loverみたいなムラーツとで、関係性の違いが音楽にモロ出ちゃったわけです。

 ジャズ・ファンの間では、オスカー・ピーターソンは概ね「ハズレのない人」という評価が確立しています。好不調の波がなく、浮き沈みもなく、(大病を患うまでは)腕前の劣化もない。どのアルバムを聴いても、それなりの品質が約束されているからです。
 それでもやっぱりにんげんだもの、大名盤がある一方で、「ピーターソンにしてはフツーかなあ」といった作品もあります。本作は後者の方ね。

 そうは言ってもピーターソンはピーターソン、鍵盤の皇帝でっせ。
 たとえ「フツーかなあ」のアルバムであっても、凡百のピアニストとはレベルが違います。
 ああ傍らにブラウンがいてくれたら…と切望しつつも新人ベーシストのプライドを潰さないよう気配りしてピアノを弾く心優しい皇帝のプレイを高音質でお楽しみください。

 ときに、ピーターソンと袂を分かったレイ・ブラウンは、その後どうなったのでしょう。
 クインシー・ジョーンズのマネージャーをしていたのは、以前タル・ファーロウの項に書いた通りです。またベーシストとしてたくさんの名盤に客演し、たくさんの才能を見出して新人を掘ってきました。フィニアス・ニューボーンの復活にも一役買っています。ジャズ界への貢献は絶大です。
 そしてパブロ時代に入ると、ピーターソンと再共演しました。このバッテリーは、不倶戴天のケンカ別れをしていたわけではないみたいですね。よかったよかった。

 ちなみにジョージ・ムラーツは、この共演を機に「ピーターソン相手にブイブイ言わしたったで」と業界関係者に吹聴して回ったおかげで仕事のチャンスに恵まれ、やがてグレート・ベーシストへの階段をトントントンと駆け上がっていきました。'90年代には巨匠の風格さえあったもんな。weekend loverのくせに。
★★★

The Oscar Peterson Trio
Oscar Peterson: Piano
Jiri Mraz: Bass
Ray Price: Drums

Produced By Hans Georg Brunner-Schwer
Recorded in Villingen
Recording Director and Engineering: H. G. Brunner-Schwer

Front Cover: Hubertus Mall
Design: MPS - Atelier
Photos: Werkmeister, Hasenfratz, Hourticolon - BILD A. S., Hugel, Popsie

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