2023/02/09

Fania All Stars / Spanish Fever ('78)

A1Spanish FeverB1Coro Miyare
A2Que Pasa?B2Donde
A3Space Machine (Ride, Ride, Ride)B3Te Pareces A Juda
A4Your SerenenessB4Sin Tu Carino
 ジャケット写真の美女が、目で訴えています。
 見ているわれわれの心を射抜くような、この目がたまらない。きっと「見て見て!ワタシの鎖骨」とでも言いたいのでしょう。

 すでに拙ブログで取り上げた"Delicate and Jumpy"と同様な、ファニア・オールスターズの出前企画です。
 今回の出張先はファニアの根城でもある、ニューヨーク。ご当地フュージョン・プレイヤーたちとの他流試合となりました。はたして、どうなりますことやら。

 押し寄せてきたファニア軍団をしぶしぶ迎撃する先頭に立ったのは、トランペットの巨人、メイナード・ファーガソン。ジェイ・バーリナーのフラメンコ風ギターを露払いに豪放なブローをかまし、圧倒的存在感でファニア勢をコテンパンに蹴散らしています。A1がアルバム・タイトルになったのも納得の出来。

 かようにA面はフュージョン界の人気者が、おいしいところをことごとくかっさらってしまうお祭り曲が続きます。
「これのどこがサルサなんだよ!」とお嘆きの諸兄は、しばらくお待ち下さい。B面にひっくり返せば、オーソドックスなサルサが並んでいますので。

 B1のトランペット・ソロはルイス・ペリーコ・オルティスが吹いています。これが激しいの何のって。「オレだってこれくらい吹けるんだぜ」とメイナード・ファーガソンを挑発しているかのようです。

 本作中、もっとも普通のサルサがB3。イスマエル・ミランダのヴォーカル、このセンティミエントを感じてほしい。

 声に喜怒哀楽を込めて聴く者に届ける、という音楽の原初にある情動ともいうべきものが、盤面から立ち上ります。サルサの心が、言語の壁さえ越えて私の内に入ってくるのです。
 A面とはまるっきり別の世界。思いを伝えるのが音楽の要訣だとすれば、フュージョンというジャンルにはそれが致命的に欠如しているのではないか、なんてことまで考えてしまいました。

 どこからどう聴いても普通のサルサ、それが地味に、控えめにフュージョンの欠点を露呈しています。このアルバムでフュージョンに対峙したファニア軍は、きっとサルサの勝利を確信したに相違ない。

 なお本作、大手レーベルからのリリースとあって、サルセイロがふだん使っている街角のスタジオで録ったものではありません。最高の機材と人材を擁した、名門スタジオでレコーディングされました。おかげで楽器の音が生々しく、たいへん解像度の高い音質です。こんなハイファイ・サルサ、めったにありませんぜ。

 さて、この企画でファニアとNYフュージョンの間を取り持ち、現場を仕切ったプロデューサーはジェイ・チャタウェイという人。
 本作に客演しているメイナード・ファーガソンやフュージョン系、ボブ・ジェームス系の連中なんかは、彼の人脈です。

 それにしてもジェイ・チャタウェイ、どこかで聞いたような名前だな…。
 グーグル検索したらすぐにわかりました。テレビや映画音楽の作曲家みたいですね。

 チャタウェイのフィルモグラフィーでは、チャック・ノリス主演の『地獄のコマンド』がひときわ目を引きます。これはとても面白い映画でしたよ。

 テロリストによる大規模な全米侵攻作戦を、チャック・ノリスがほぼひとりで食い止めてしまうお話。
 この、非現実的なまでのチャック・ノリスのワンマン活躍っぷりが、後年チャック・ノリス・ファクトにて超人化される発端になったのかもしれません。

 映画のクライマックスは敵役のリチャード・リンチがぶっ飛んで死亡。この惨殺場面がじつに気合いの入った特撮で、担当したのはトム・サヴィーニ先生なのだとか。
 ちなみに『マニアック』のスコアもチャタウェイなんだよな。サヴィーニもチャタウェイの人脈だったりして。
★★★

Produced by Jay Chattaway in Association With Jerry Masucci
A Fania Records Production

Recorded at The Power Station, Mediasound and Sound Mixers, New York
Mixed at The Power Station by Bob Clearmountain
Recording Engineers: Bob Clearmountain, Alex Head, Doug Epstein, Tony Bongiovi, Geoff Daring
Assistant Engineers: Don Berman, Ray Willhard, Greg Morel, Liz Saron, Matt Murray, Mike Brauer

Featuring: Papo Lucca, Nicky Marrero, Johnny Pacheco, Roberto Roena, Johnny Rodriguez, Bobby Valentin
Also: Ismael Miranda, Ruben Blades, Louie Ramirez, Louis "Perico" Ortiz
Guest Soloists: Maynard Ferguson, Hubert Laws, Eric Gale, David Sanborn, Jay Berliner, Joe Caro

Cover Photo: Frank Laffitte

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