2026/10/02

Frank Morgan and The McCoy Tyner Trio / Major Changes ('88)

最初に食べたのは醤油ラーメンかカツ丼か

A1ChangesB1Frank's Back
A2How Deep Is the OceanB2All the Things You Are
A3EmilyB3Theme From Love Story
A4Search for Peace
 フランク・モーガンというサックス奏者は、長いこと別荘暮らしをしていました。

 ただし幸いなことに、刑務所内では音楽活動が許されていたようです。
 塀の中では「練習しかすることがなかった」と、出所後にモーガンは述懐しています。

 練習、練習、練習。サックスの腕前は衰えるどころかむしろ、どんどん上達していきました。入所前よりもずっと上手くなっていたとか。
 早く表舞台に返り咲きたい、そんな思いを塀の外に馳せ、残りの刑期を指折り数えつつ、ひたすらサックスの研鑽を重ねて幾星霜。

 刑務所でクサい飯を食っている間にも、シャバではポピュラー音楽の潮流がめまぐるしく転変しています。ようやく刑期を終える頃には、モダン・ジャズの全盛期はとっくに過ぎ去っていました。
 出所したモーガンはあたかも失われた青春時代を取り戻そうとするかのように、精力的に音楽活動に打ち込みます。ビバップのまま止まっていた彼の時計が、80年代に再び動き始めるのです。

 といってもモーガン、決して鎖国にいたわけではありません。刑務所には常時、旬のミュージシャンが出入りしていましたから、塀の中だろうとモーガンの音楽観はアップデートされていました。刑務所バンドで培ったこれら内外の人脈が、やがて彼の社会復帰を支えることになります。

 いよいよ自由になったモーガンは、ものすごいペースで凄まじい量のレコーディングを成し遂げます。ジャズ・ジャイアンツと数多く共演し、次から次にアルバムを発表しました。停滞気味だった80'sジャズ・シーンに、30年分のガマン汁がぶちまけられたのです。

 本作はそろそろシャバの空気に慣れてきたモーガンが、当時ちょっぴり落ち目だったマッコイ・タイナーをかわいがったる、という企画。
 モーガンが別荘暮らしをしている間に、モダン・ジャズはどんどん先鋭化しました。その象徴的存在であったのが、ジョン・コルトレーン。なのでコルトレーンの相棒だったマッコイを共演者として迎えるということは、モーガンにとって棒に振った人生の帳尻を合わせるという意義もあったのではないかな。

 招かれたマッコイとしては、なんぼ業界の先輩とはいえ芸歴はオレの方がずっと長いんだ、という気負いがあったことでしょう。いつもいっしょのレギュラー・トリオまるごとの共演なので、よーしオレたちの掌の上でじいさん転がしてやろうぜ、みたいなマウンティングでセッションに臨んだわけです。

 両者の思惑が絡み合った結果、マッコイ・タイナー・トリオのお膳立てに、モーガンが乗った。そういうアルバムに仕上がりました。

 セッション全体を仕切ったのは、マッコイでしょう。そういうサウンドです。どこを切ってもマッコイです。モーガンが社会不在の間に、こうなってしまったモダン・ジャズ。
 鉄の結束を見せるマッコイのトリオに、モーガン、何とか自分の居場所を見つけようとチャーリー・パーカーっぽいフレーズを浴びせながら歩み寄ります。それがピタッとハマったようなところがある一方、好き勝手にプープー吹いているようでもあり、いかんせん噛み合わせがいまひとつの感。

 神輿の担ぎ手が3人いて、3人の息はピッタリなのに、肝心の神輿との一体感が乏しいというか。
 でもこういうかすかなチグハグ感みたいなもの、80年代ジャズにはよくありますよね。まあそれも味のひとつなのかなと。

 ジャケットをごらん下さい。いかにも80年代ジャズにありがちな、お気軽フォトですな。
 しかし内容を聴いてから改めて眺めると、一枚岩のようなトリオと、少し離れたところに立つモーガン、なるほどこれは両者の関係を空間で表現しているんだなと気付かされます。

 モーガンにしてみれば、マッコイがゴキンゴキンと鍵盤を乱れ打つのを背中で聴きながらサックス吹くことで「なんちゃってコルトレーン」の大願成就です。塀の中からただただ一方的に恋慕するしかなかったコルトレーンと、20年の時を経て同じ場所に立てた、もうそれだけでよかったのです。アルバムの出来なんてどうだっていい。

 おじさんになってから、青春の忘れ物を取り戻したいという気持ち、わかる。今の私には痛いほどわかる。
★★★

Frank Morgan: Alto Saxophone
McCoy Tyner: Piano
Avery Sharpe: Bass
Louis Hayes: Drums

Richard Bock Production

Recording Engineer: Ed Rak
Recorded Direct-to-Digital at Clinton Recording Studio, New York City; April 27–29, 1987

Mastering: George Horn (Fantasy Studios, Berkeley)

Art Direction: Phil Carroll
Cover Design: Jamie Putnam
Photography: Jim Marshall

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