2025/05/25

Joey Wilson / Going Up ('80)

A1If You Don't Want My LoveB1Call Off Your Dogs
A2Taking Me BackB2I Was a Fool
A3UndergroundB3My Car / Your Car
A4Hold on GirlB4Chances We'll Take
A5Women With IdeasB5Out of Our World
B6Underground (Reprise)
B7Going Up
 B級ニュー・ウェイヴです。

 アルバムの主人公ジョーイ・ウィルソンについては、何も知りません。わかりません。
 グーグル検索しても、本作以外の音楽活動はほぼありません。何者なんだ?

 本作が制作された1980年、音楽シーンは混迷していました。
「70年代は終わったんだよ。オールド・ウェイヴじゃねえんだ、オレたちゃあくまでもニュー・ウェイヴ」とイキがり、YMOをイモと蔑んだ若者たちが、ギラギラした野心で先鋭的な音楽活動を切り拓いていたのです。

 今でこそ古臭い流行歌という位置付けのニュー・ウェイヴが、当時はまさしく現在進行形でした。停滞していた音楽シーンに押し寄せた、文字通り新しい波だったわけです。
 ジャンルそのものに勢いがあったおかげで、華のある人、ない人、才能のある人、ない人、有象無象の十把一絡げが爆発的なエネルギーで狂騒をくり広げました。1980年を中心に据えた前後数年間は、ニュー・ウェイヴの乱痴気騒ぎが、音楽界を大いに引っ掻き回したのであります。

 祭りの後、熱が冷めてみると、やはりというか、華かあって、なおかつ才能のある人だけが生き残ることを許されました。新しい波であろうと、古い波であろうと、音楽界にザッパーンと覆いかぶさる適者生存の巨大な波からは逃れられないのです。
 先日フェアウェル・ツアーを催したシンディ・ローパーは、このジャンルが生み出した最大級の成功例と言えますよね。

 今回ご紹介するジョーイ・ウィルソンは、言うまでもなく生き残れなかった泡沫です。
 しかしながらこのようにアルバムを出しているので、泡沫にしては善戦した部類なのでしょう。ザッパーンの後に残った波の花。

 すでに不帰の人となった彼の、生きた証である唯一の作品。はたして、いったいどのようなアルバムなのでしょうか。

 アルバムのっけのA1、気合いが入ってます。ほとばしってます。
 後先のことなどいっさい考えることなく、アドホックな晴れ舞台で魂の雄叫びを上げます。まるでアルバム1枚で消えてしまう己の運命を悟っていたかのように。

 音楽スタイルとか音楽性とか、技巧やらセオリーなどは二の次三の次、まずは「叫びたい自分」をぶつけていく。
 ニュー・ウェイヴの源流は、パンクなのだそうです。なるほどA1を聴くと、それがわかるような気がします。なかなかパンクです。

 B面の後半から盛り上げにかかります。しっとり弾き語りのB4から、高速テンポのB5、予算をひねり出して動員したストリングスが冷たく響くB6、そしてタイトル曲のB7。どれもこれも60点とか、55点くらいのクオリティです。

 アルバムは全体的にパンクの影響が色濃く、その一方、フォークやカントリーのテイストはありません。まあ、YMOでさえイモと一刀両断するような連中ですからね。フォークやカントリーにはあんまし興味なさそう。

 ところどころ顔を出すサックスが、じつに気の利いた仕事をしています。このサックス奏者はまじもんだ。「サックス、オレより出しゃばるな」なんて心の狭いこと言わなかったのでしょうジョーイ・ウィルソンは。

 クレジットをよく見ると、マイケル・ケイメンの名前があります。
 ご存知の方も多いでしょう。『リーサル・ウェポン』や『ダイ・ハード』など、話題作のスコアを数多く手掛けた映画音楽の大物作曲家ですね。
 ハリウッドで名を上げる数年前、B級ニュー・ウェイヴの委託業務で糊口を凌いでいたのでしょうか。

 まさに臥竜鳳雛の頃、安アパートでパンの耳をかじっていた赤貧のケイメンに、音楽業界でメシを食わせること、音楽を諦めさせなかったことで貢献できたのなら、このどうでもいいアルバムにもそれなりに意義があったのかなと。
 フェリーニ監督の『道』という映画で気狂いが唱えていた、石ころがどったらこったらのヘリクツを思い出しちゃった。
★★★

All Songs Written by Joey Wilson

Vocal and Guitars: Joey Wilson
Bass: Sal Maida
Drums: Bob Wynn
Keyboards: Bruce Brody, Jimmy Destri, Chris Larkin
Additional Guitars: Ritchie Fleigler
Saxophone on A3 and B1: Roland Alphonso
Percussion: Victoria, Larry MacDonald
Strings Arranged and Conducted by Michael Kamen
Second Vocal on B1 and B7 by Sabu Dumango
Background Vocals on B2 and B3 by Ellie Greenwich, Ula Hedwig and Mickey Harris
Synthesizers by MOOG
Recorded at Chelsea Sound Studios Downtown, NYC
Engineered by Robert L. Clifford
Mixed at A&R Studio R2, NYC
Mastered at Master Disc by Bob Ludwig
Assistants: Scott Keller, John Davenport, Ollie Cotton
Equipment Arrangements: Bruce Patron, Doug Kelly
Esoteric Instruments and Production Co-ordination: Chris Evans
Album Concept, Design and Photography: Robert Younger

Produced by Jimmy Destri

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