2024/08/05

Trummy Young / Someday ('80)

A1PerdidoB1Creole Love Song
A2I'm Confessin'B2Someday
A3Struttin' With Some BarbecueB3If I Could Be With You
 セミリタイアしてワイハに隠居していたトロンボーンの名手が、爺さん仲間たちと枯淡のセッション。

 トロンボーンのトラミー・ヤング、67歳。
 クラリネットのバーニー・ビガード、73歳。
 トランペットのピー・ウィー・アーウィン、67歳。
 ベースのミルト・ヒントン、68歳。

 ピアノのディック・ハイマンがこの時点で52歳ですから、まだまだ小僧の扱い。使い走りにさせられたりして。

 おじいちゃんたち、さすがにこの齢でドサ回りはきつい。でも気候温暖なハワイのスタジオで、ちんたらレコーディングするだけなら大丈夫さ。
 仕事というより、同窓会のようなノリで集まったのではないかな。今、会っておかないと、次はないかもしれない。齢を重ねた者同士、そういう覚悟も込みで。
 和やかで、楽しげで、みんな笑顔で、昔話に花が咲いちゃったりして、でもほんのり切ない、そんなアルバム。

 手垢のついたスタンダード・ナンバーばかりです。新曲なんて面倒くせえよ、覚えられねえよ、そういう現場の雰囲気だったのでしょうか。
 楽器を吹くのさえ面倒だなあ、となれば、じゃあ歌ってつないでしまおう。あ、ちなみにオレ歌手じゃないですよ。そんな感じでヴォーカル・ナンバーもあったりします。
 まさにやりたい放題。これがホントのヤング・ハーツ・ラン・フリーってか。

 何でしょうかアルバム全編を覆いつくすこの緊張感の乏しさ。おカネを賭けない老人ホームの麻雀のようです。

 しかしそれでもアルバムが成立するのは、各プレーヤーの力量ゆえと言えましょう。いずれもこの世界を生き抜いてきた手練れですからね。加齢による緩みや弛みでさえも、音楽的に「味になる」のです。A2のヴォーカル聴いてみて下さいよ。

 ときにジャズの世界って、夭折したミュージシャンが称揚されがちですよね。まあ、ジャズに限ったことではないか。
 クリフォード・ブラウンが代表例。あと、スコット・ラファロとか。

 彼らが神格化されればされるほど、相対的に、芸歴が長くてレコードをたくさん出しているおじいちゃんたちが、低評価に甘んじてしまう感は否めません。

 もしも、もしもの話ですよ。
 もし、オスカー・ピーターソンがアルバム2つ3つ出して20代で亡くなっちゃったとするじゃないですか。
 すると、ピーターソンは「早世の天才」とか何とか、絶賛されたと思うんですよ。伝説にだってなれたでしょう。

 ところがピーターソンにとっても、ファンにとっても幸いなことに、ピーターソンは長く生きました。主演であれ客演・助演であれ、膨大な録音を残すことができました。世界中のあらゆる国や地域でコンサートを催し、たくさんの聴衆に強靭なピアノ・プレイを届けました。

 ジャズ・ファンの界隈においてピーターソンが軽視されがちなのは、その活動量がベラボーに多いことと無関係ではないと思います。
 ピーターソンが100年にひとりの逸材であったにせよ、50年以上も第一線で活躍し続けたわけですからね。

 もしも、もしもの妄想に、もうちょっとだけお付き合い下さい。
 もし、クリフォード・ブラウンが事故に遭わず、長生きしたらどうなっていたか。

 順風満帆なジャズメン人生だったかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。
 マイルス・デイヴィスのようになっていたのか。ディジー・ガレスピーのようになっていたのか。

 圧倒的な演奏技術でセンセーショナルに登場し、やがて落ち着いて(尻すぼんで)いったリッチー・コールのようなキャリアを歩んだのではないかなあ。私にはそんな気がするんだ。
 あるいはフュージョン・ブームに便乗しようとして、純粋主義のジャズ・ファンから唾棄されたりして。割とあり得そうな話でしょ。

 ただしどんな生き様であろうとも、少なくとも事故死よりはずっといい。それだけは間違いないのです。なのでみなさん、安全運転で行こうヨシ!
★★★

Producers: Marshall and Norma Carlson
Recorded at Sounds of Hawaii, April 1979
Engineer: Herb Ono
Cover Photograph: Clarence Eastmond
Album Design: Ron Warwell / NJE

Trummy Young: Trombone
Dick Hyman: Piano
Bobby Rosengarden: Drums
Barney Bigard: Clarinet
Paul Madison: Tenor Sax
Pee Wee Erwin: Trumpet

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