2024/02/02

Kai Winding / Caravan ('77)

A1Them There EyesB1In a Mellow Tone
A2Easy LivingB2Sophisticated Lady
A3Gee, Baby, Ain't I Good to YouB3Caravan
A4Good Morning Heartache
A5What a Little Moonlight Can Do
 ジャケットをカラー印刷できなかった。つまりそれくらい、低予算の制作環境だったということです。
 そのくせ、カイ・ウィンディングに砂漠の隊商みたいなコスチュームを着せています。そこはケチらなかったのね。

 J・J・ジョンソンとのコンビで、そこそこ名の知られたトロンボーン・プレイヤーです。ピアノ・トリオを侍らせ、A面でビリー・ホリデイの関連曲、B面はエリントン・ナンバーを吹いています。

 トロンボーンのワン・ホーン・カルテットというのは、トランペットやサキソホーンのカルテットほど売り上げを見込めないのでしょうか。メジャー・レーベルに企画を持って行っても門前払いされ、どインディなレーベルからのリリースを余儀なくされました。せめてカラー印刷くらい、許してやったらどうや。

 ただしこの時代、ジャズ界には寒風が吹きすさんでいましたので、冷遇されていたのは何もトロンボーン奏者に限ったことではありません。インディとはいえ、自分の主導したレコーディングを実現できただけ、カイ・ウィンディングはまだ恵まれていた方なのかもしれないですね。コスプレもできたし。

 アルバム全編、トロンボーンのやさしく、温かい音色でいっぱい。とりわけA面は、あたかも人間が歌っているかのような情感さえあります。
 エリントン屈指の名バラードB2は、気品をたたえつつもノンシャランな原曲のムードに、トロンボーンが見事ハマりました。

 ピアノを弾いているのはベテランのフランク・ストラゼリ。この人は駆け出しの頃、アート・ペッパーのバンドに参加したものの、ふがいないプレイでペッパーの逆鱗に触れ、クビになってしまったらしい。そんな過去をものともせず、本作ではじつに堂々たる演奏を聴かせてくれます。挫折をバネに努力したのでしょう。
 まあ誰にだって、どんな仕事だって、新人のときにはほろ苦いエピソードのひとつふたつありますよね。みなさんにもきっとあるはず。

 本作を縁の下で支えているのは、キビキビとしたドラミング。かっちり、几帳面にビートを刻みつつ、バンドに燃料を供給します。A3なんてほとんど主役みたいなもん。
 ドラマーはンドゥグなる人物。発音しにくい名前だなあ。「ン」で始まるというのが驚きです。しりとりのルールが変わってしまうじゃん。

 ちなみにこのンドゥグ氏、マイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」でも叩いてます。
 せいぜい2,000枚のプレスがやっとのインディな本作と、世界中で数億人が耳にした「ビリー・ジーン」、まさに別世界、ハナクソと木星くらい違います。もんげー振れ幅です。音楽ビジネスのダイナミズムを感じるではありませんか。
★★★

Members of the Caravan
Kai Winding: Trombone
Frank Strazzeri: Piano
Ndugu: Drums
Louis Spears: Bass

Credits
Arrangements: Kai Winding
Produced by Kaiwin, Ltd.
Producer: Kai Winding
Recorded by Sage and Sand Studios
Recording Engineer: Jim Mooney
Editing: Ed Ravenscroft, Jr.
Cover Design: Eleanor Hamilton
Photographer: Ray Avery

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