2023/06/04

George Shearing / Light, Airy and Swinging ('73)

A1Love Walked InB1Emily
A2IfB2Beautiful Friendship
A3Too Close for ComfortB3Once Upon a Summertime
A4Speak LowB4Cynthia's in Love
 私が買ったこれは、盤質がよろしくない。
 なので本作に関するMPS/BASFの高音質については、語ることができません。盤質がよければおそらく、なかなかの音質だったのではないか、とノイズの波間から想像するくらい。

 中古レコードを買うことは、2つの意味で冒険です。
 まず、内容のアタリハズレ。そして盤質のアタリハズレ。

 内容・盤質の両方アタリなら随喜の涙。両方ハズレなら、悲憤の涙。
 内容がハズレで盤質がアタリだと、あんまり聴かなくなりレコード棚で埃をかぶることになります。オーディオ・マニアの人なら、機器のチェックに使ったりするのかもしれませんね。

 悩ましいのは、内容がアタリで盤質がハズレの場合。
 理想的なのは、盤質良好のブツを引くまで、しつこく、しぶとく買い直すことです。実際、そうしている方もいらっしゃるようで。

 私は買い直し、ほとんどしません。たったひとつの例外は、デニースの"My Melody"です。
 最初に買ったブツがノイズまみれ、針がジャンプしまくる凄惨な盤質だったのです。内容はナイスなのに、こんなヘボい音ではとても聴けない、そう悲観した私は工具室に走り、はつり用ハンマーを持ってきて叩き割りました。
 それから数年後、中古レコード屋さんの店頭にて"My Melody"を発見。めでたく、買い直すことができました。今度のは、盤質にも満足しています。いやあ、叩き割ってよかったよかった。

 タマ数の多いデニースだからこそ、ためらうことなく叩き割ったし、再会だってできたのです。これがもし、一期一会の珍盤の類であったなら、けっしてそんなヴァイオレントな行為はしません。できません。

 みなさんも、激情に駆られて叩き割りたくなること、きっとあると思います。でもその前に、どうか深呼吸して下さい。そして本当に割ってよいものかどうか、慮って下さい。
 ひとたび破壊されてしまった盤は、二度と聴くことができないのです。そこんとこよろしく。
 なおビリー・ジョエルやスティーヴィー・ワンダー、ホール&オーツだったら、容易に買い直しできるでしょう。どこのお店にも在庫が溢れ返っていますからね。遠慮は要らねえ。やっちまいな。

 さて本作、ジョージ・シアリングがMPSに移籍しての第1弾。高音質に定評のあるレーベルだけに、それはもう発奮したことでしょう。
 ぎっしり音を詰め込むようなことはせず、ピアノ・ベース・ドラムスの各楽器がスキ間をたっぷり使って、シンプルなのに豊かな音空間を作り出しました。まさにタイトル通りと言えましょう。サイドメンもシアリングの思い描く音世界をわきまえ、引き算に徹して好演しています。

 あらゆるジャンルのアーティストがこれまで幾度となくカバーしているA2。この曲には、ミュージシャンたちの心をたぎらせる何かがあるのでしょうか。
 シアリングのカバーは原曲のワビもなければ、サビもない。原作者のデヴィッド・ゲイツが聴いたら「違う、そうじゃない」と思わず叫んでしまいそうな蛮行です。
 しかしこれほど、シアリングらしさを感じさせるアレンジはありません。こういうアプローチ、他のジャズメンならまずやらんでしょう。自分だけの、特有のサウンドを持っている人は、やはり強いんだな。

 B1は映画のサントラです。『卑怯者の勲章』という映画らしい。見たことないなあ。どんな映画なんだろ。
 ジョニー・マンデルの書いた、とても美しいメロディ。シアリングの魔法によって、この美しさが余すところなく引き出されました。聴けば聴くほど、映画を見たくなってしまいます。レンタルビデオないんですか?
★★★

Piano by Baldwin
Recording Engineer: Ken Hopkins
Photography & Liner Notes: B. G. Falk
Cover Design: Maria Eckstein

Recorded Under Supervision of Baldhard G. Falk in San Francisco, Calif.

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