2023/05/28

Eric Andersen / Be True to You ('75)

A1Moonchild River SongB1Liza, Light the Candle
A2Be True to YouB2Woman, She Was Gentle
A3Wild Crow BluesB3Can't Get You Out of My Life
A4Ol' 55B4The Blues Keep Fallin' Like the Rain
A5Time Run Like a Freight TrainB5Love Is Just a Game
 私が子供の頃、テレビのニュースで事件を報じるときなど、容疑がかかった人の名前は呼び捨てでした。
 刑事裁判で罪が確定するまでは(いや、確定しても)呼び捨てるなんてひどいじゃないか、というのは現代の感覚だから言えること。少なくとも昭和のニュースではバンバン呼び捨てにしていたし、ニュースを見ているわれわれも「あ、コイツ呼び捨てられてるから、犯人なんだな」といった程度の認識でした。

 そういう時代なので当然、容疑者の顔写真も、テレビでドバドバ垂れ流しています。「いかにも悪いことしそうな顔だなあ」とか何とか、見ているわれわれも無邪気につぶやいていました。まだ確定していないのに。
 なので運転免許証やパスポートなど、容易に変更できない写真が不運にも凶相になってしまったら、「うわー犯罪者の顔になってしもた」などと地団駄を踏むのが昭和における日常茶飯事でしたよね。

 さて、フォークの巨人エリック・アンダースンが、絶頂期に発表した本作。
 ごらん下さいこのジャケット写真。しょーもない罪を犯して逮捕された小悪党のようです。

 私はこれを手にした途端、昭和のニュースでさんざん見てきた、犯罪者たち(確定したわけではない)の写真を思い出さずにはいられませんでした。なぜなんだろう。

 おそらく昭和の頃は、パクった際に警察が写真を撮り、それをマスコミに流していたのでしょう。モノクロ、背景なし、無気力もしくは不機嫌な表情など、だいたいパターンが統一されています。
 本作の写真がその様式に則ってしまったため、犯罪者っぽいムードを醸してしまったわけです。

 やがて時代は昭和から平成へと移ろい、人権に対する意識も変わっていきます。
 事件報道では、容疑者や被告の名前を呼び捨てることはなくなりました。いや呼び捨てる・捨てない以前に、実名で報じないケースも散見されます。

 昭和のニュース名物でもあった、犯罪者(くどいようだが確定していない)の写真も、とんと見なくなりました。もしかして、警察からマスコミに写真を漏らすルートが埋められてしまったのかな。
 その代わり、知人や関係者から入手したであろうスナップ写真やプリント倶楽部、卒業アルバムなど、さまざまなフォーマットから切り抜かれた顔が、ニュースで使われてしまうんですよね。総天然色で、生活感のある写真。イキイキしていたり、やさしそうな表情のものさえあったりします。

 数年前に川崎で、バスを待っていた児童を無差別に殺傷する通り魔事件がありました。
 みなさんも憶えているでしょう。死傷者多数の、世間を震撼させた大ニュースです。
 マスコミ各社は、犯人(これは確定)の写真を一斉に報じました。それが驚くことに、中学校の卒業アルバムだったのです。犯行時に50歳を過ぎていた殺人鬼の写真が、中学生の頃しかありません。大人になってから撮られた写真はなかったのでしょうか。
 事件の凄惨な残虐性と、犯人の顔があどけない中学生であることがうまく結び付かず、報道を見た私はただただ混乱しました。おそらく人相も変わり果てているでしょうに、中学生時代の写真を衆目にさらすことに、いったいどれほどの意味があったのか。

 閑話休題。アルバムの話に戻ります。
 前作『ブルー・リヴァー』で一気にその名声を高めたアンダースンは、好条件を示したアリスタ・レコーズのオファーに跳び付きます。温かいベッドで眠る日々に慣れてしまったら、放浪生活にはもう戻れませんからね。

 もっともっとカネをかければ、もっともっといい『ブルー・リヴァー』を作れるのではないか…アリスタのプロデューサーは、きっとそう考えたのでしょう。
 本作をひとことで表すなら、金満ブルー・リヴァーです。リッチでゴージャス、豪華絢爛なフォーク・ミュージックの世界。

 案の定、『ブルー・リヴァー』のファンからは非難や怒号が激しく噴出しました。こんなにカネをかけたら、アンダースンの持ち味が消し飛んでしまうだろ、という彼らの言い分、よくわかりますよ。

『ブルー・リヴァー』には、「わかる人だけ、わかってくれたらいいよ」という、フォークの巨人が誰にも媚びることなく貫いた、孤高の姿勢がありました。それゆえ彼の宇宙にひとたびハマってしまったら、熱狂的なファンになること一直線です。
 対する本作は「みんなみんなみんなー、オレの音楽を聴いてくれー」と、何だかえらく低姿勢に、自らドアを開けてこちらに微笑んでいるかのような印象。前作の熱狂的なファンにしてみれば、それが卑屈であったり、迎合しているように感じられてしまうのでしょう。

 ちなみに私はこのアルバム、嫌いではありません。
 何のかんの言っても私だってやっぱり、背中を向けている人より、ヘソを向けている人の方を好きになるのです。ま、この場合はアンダースンのではなく、プロデューサーのヘソなのかもしれませんけど。
『ブルー・リヴァー』を覆い包んでいた、いくら何でもしみじみしすぎ!って雰囲気に気前よく予算が注入され、とっつきやすくなっている本作の方が、私にはずっと嬉しい。

 旧作の熱狂的なファンが、怒り狂ってメッタ斬り、メッタ刺しにしたB3。
 たしかにこの人らしくない。おかしなことになってます。いったい何があったんや?
★★★

Produced by Tom Sellers
Eric Andersen: Acoustic and 12 String Guitars, Harmonica and Fender Rhodes

The Players
John Guerin and Russ Kunkel: Drums
Scott Edwards: Bass
Dean Parks: Electric Guitar
Tom Hensley: Piano
Howard Emerson: Acoustic Guitars, Dobro
Gary Coleman: Percussion Instruments
Tom Scott: Tenor Saxophone
Tom Sellers: Electric Clavinet
Emanuel Moss: Concert Master and First Violin

Arranged by Tom Sellers

Mark Sporer: Bass on B4
Chris Bond: Electric Guitar on B3
Ernie Watts: Flautist on A5 and B1
Jesse Ehrlich: Cellist on the Same As Above
Richard Bennett: Steel Guitar and High String Guitar on A4, Acoustic Guitar on B4
Allen Lindgren: Acoustic Piano on A4, Electric Wurlitzer on B4
Dennis St. John: Drums on Both of the Above
Emory Gordy: Bass on A4
B4 Was Produced by Eric Andersen, John Florez and Tom Sellers
A4 Was Produced by John Flores and Tom Sellers

Recorded and Mixed at the Sound Labs, Los Angeles, Nov, Dec 1974 and Jan '75 With the Exception of A4 and B4 which Were Recorded at Wally Heiders August '74
Engineer: Joe Sidore

Production Assistant: Martha Graham Sellers

All Songs Written by Eric Andersen With the Exception of A4 Which Was Written by Tom Waits

Background Vocalist in the Order of Their Appearance
Side One: Jennifer Warren, Andy Robinson, Eric Andersen, Ginger Blake, Maxine Willard Waters, Julia Tillman Waters, Doug Haywood, Jackson Browne, Herb Pedersen, Mike Condello and Debra Andersen
Side Two: Doug Haywood, Herb Pedersen, Joni Mitchell, Ginger Blake, Maxine Willard Waters, Julia Tillman Waters, Ray Buckwich, Orwin Middleton, Jennifer Warren and Maria Muldaur

Design: Richard Mantel
Art Direction: Bob Heimall
Photography: Ed Baskin
Back Cover Art: Eric Andersen

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