2019/09/19

Gene Ammons / My Way ('71)

A1Chicago BreakdownB1Sack Full of Dreams
A2What's Going OnB2Back in Meridia
A3A House Is Not a HomeB3My Way
 ずいぶん昔に、フランク・シナトラの半生を綴った『ヒズ・ウェイ』という本を読みました。シナトラの生い立ちから芸能界の歩み、交友関係や人脈など、どちらかというと彼のダークな面を、膨大な資料や関係者へのインタビューをもとに、ジャーナリストのキティ・ケリー女史が書き上げた労作です。

 光り輝くスーパースター。その光が明るいほど、その影は暗く、深い。素晴らしい歌唱の反面、人間的にはろくでなしだったシナトラ。
 本人はもちろん取材協力などしてくれないので、彼の周辺で丹念に取材を進め、証言を積み重ね、彼の暗部を、恥部を、白日の下に晒し出しました。そのショッキングな内容に、全米が『ヒズ・ウェイ』の話題で持ちきりとなったらしい。
 ほとんど間をおかず、わが国でも翻訳版が刊行されました。それくらい、全米における反響が大きかったのでしょうな。

 シナトラといえば、マフィアとの交流でもよく知られていますね。私はてっきり、シナトラとマフィアはズブズブの仲よし関係かと思っていました。ところが『ヒズ・ウェイ』を読むと、どうやらそうでもなかったようです。サム・ジアンカーナの電話を盗聴していたFBIの記録によると、シナトラはマフィアのヒット・リストにあわや載るところでした。

 ジアンカーナの子分ジョニー・フォルモーザが、親分にこう進言しています。
「シナトラのクソ野郎まるで使えねえ。殺っちまいましょうよ親分。ついでにディーン・マーチンとローフォードも殺して、せっかくだから黒んぼのもういっこの目ん玉えぐり出してやりましょう」

 ちょっと解説します。なぜシナトラを「使えない」とボーイズが怒っていたのでしょう。
 当時マフィアは、JFKとシナトラが親友なのを利用して、さまざまな政治的便宜を図ってもらおうと画策していました。ところがJFKがシナトラを見限ったため、このパイプが期待できなくなった。JFKの票集めにさんざん協力してきたマフィアは、骨折り損のくたびれもうけです。そこでシナトラこの野郎!となるわけ。
 なおここでいう黒んぼとは、サミー・デイヴィス・Jr.のこと。数年前の事故で片目を失っていました。フォルモーザは、もうひとつの見えている方の目を取ってしまえ、と提言しているんだね。

 人殺しが大好物のジアンカーナ親分も、さすがにこの提案は却下しました。彼らを生かし、そして彼らの命をカネに換える方法を選択するのです。

 いやあ、恐ろしい話ですね。それよりも何より私が驚いたのは、FBIの盗聴記録でさえ機密解除してしまうアメリカの情報公開っぷりですな。わが国もぜひ見倣ってもらいたい。

 ちなみにこの『ヒズ・ウェイ』という本、やはりというか執筆の時点からシナトラ側が執拗に圧力をかけ、出版を妨害しました。やがてケリー女史が脅しに屈しないと知るや、大金を払って懐柔しようとしたのです。
 しかし「シナトラが必死に阻止しようとしている」というウワサが漏れ伝わると、書店に並ぶ前から人々は大いに興味をかき立てられ、この上ない宣伝になりました。狼狽したシナトラの悪手が、ベストセラーに貢献してしまったわけです。今風に言うなら、燃料投下乙、ってか。

 さて『ヒズ・ウェイ』というタイトル、言うまでもなくシナトラの代表曲「マイ・ウェイ」に絡めたものです。シナトラの歩んできた道を3人称視点で描くこの本に、これ以上相応しいタイトルはないんじゃないかって気がします。

「マイ・ウェイ」がシナトラのシグネチュア・ソングであることに、異論はありません。しかし一方で、「マイ・ウェイ」はカバー・バージョンのとても多い曲として知られています。あらゆるジャンルのたくさんのアーティストが、これまでカバーしてきました。
 と、ここまで引っぱって引っぱって、ようやく本作、ジーン・アモンズの"My Way"に話が及ぶのであります。

 有名曲中心に構成された、インスト・ソウルとジャズのフュージョンです。ボスのサックスを盛り立てるのは、リズム・セクションにホーン・セクション、ストリングス、曲によっては女性コーラスも加わるゴージャスな陣容。

 本作の目玉は、言うまでもなくB3"My Way"です。B3までに至る5曲は、"My Way"のイントロと割り切ってしまいましょう。
 もちろんこの5曲とて資源の無駄遣いというわけではなく、レオ・モリスのキビキビしたドラミングなど楽しい聴きどころがあり退屈させません。

 そしていよいよ"My Way"です。もう何も思い残すことはない、とでも言わんばかりにテナー・サックスを吹き切りました。クライマックスの独奏に、ボスの歩んできた苦難の人生が凝縮されているような気さえします。こういう演奏を引き出してしまうのは、やはり「マイ・ウェイ」という曲に魔物が宿っているからなのでしょうか。

 ジャケットの裏はごらんの通り、アモンズのイキ顔です。"My Way"を吹き終えたボスはきっと、こんな恍惚の表情を浮かべていたんだろうなあ。

 もしこれが遺作だったら、伝説になれたかもしれません。でもアモンズのミュージシャン人生は、もうちっとだけ続くんじゃ。
★★★

Produced by Bob Porter
Arranged and Conducted by Bill Fisher
Engineered by Rudy Van Gelder
Photography and Design by Tony Lane

Personnel
Gene Ammons: Tenor Sax
Roland Hanna: Electric Piano on A1, A2 and A3
Ted Dunbar: Guitar on A1 and A2
Chuck Rainey: Fender Bass on A1 and A2
Idris Muhammad: Drums Except A3
Omar Clay: Percussion on A1, A2, B1 and B2
Ernie Royal, Robert Prado: Trumpets Except A3
Garnett Brown: Trombone Except A3
Richard Landry: Tenor Sax Except A3
Babe Clarke: Baritone Sax Except A3
Patricia Hall, Linda Wolfe, Yvonne Fletcher, Loretta Ritter: Voices on A1, A2, B1 and B2
Billy Butler: Guitar on B1, B2 and B3
Ron Carter: Bass on B1, B2 and B3

0 件のコメント: