2019/08/31

Gino Cunico ('76)

A1DaydreamerB1Can't Smile Without You
A2She's Sweet, She's SomebodyB2Don't Throw It All Away
A3Can't Hold on Any LongerB3Don't Get Around Much Anymore
A4When I Wanted YouB4Emptiness
A5Fanny (Be Tender with My Love)B5Can't Hold on Any Longer (Reprise)
 バリー・マニロウは、ポピュラー音楽の世界において、唯一無二の、特別の存在です。
 拙ブログではこれまで度々、マニロウへの称賛を書き連ねて参りました。彼にしかできない音楽というものが、たしかにあるのです。

 それゆえマニロウのパクリとか二番煎じの類は、広い音楽界を見渡しても、まず見当たりません。マネのしようがないのです。せいぜいレイ・スティーヴンスのように、マニロウをネタとしていじるくらい。

 だから本作を聴いたときは驚きました。じつに堂々と、まるで臆することもなく、マニロウのように歌い上げているのです。こんなところにいたのか、B級マニロウ。

 謎なのは、本作、マニロウも所属しているアリスタ・レコーズからのリリースです。商売ガタキが売り出すのならともかく、本家がぱちもんを売るなんて、いったいどういうつもりなのでしょうか。

 それはたぶん、こういうことだと思う。

 もしジノ・クニコがマニロウ・スタイルを標榜して人気者になってしまったら、マニロウは大いに割を食うことになります。レーベルの看板スターとして大切に大切に育ててきたマニロウを、こんなオージー野郎に荒らされてたまるか!とクライヴ・デイヴィスが危惧したとしても、不思議ではありません。

 そこでクライヴは一計を案じます。オージー野郎が余所のレーベルにいたら、オレにはコントロールできないだろう。だがオレのレーベルに引き込んでしまえば、後は煮て食おうが焼いて食おうがカマを掘ろうが、オレの好き放題じゃないか…。

 それまでマイナー・レーベルに所属していたクニコに近寄り、言葉巧みに口説き、エサをちらつかせてつつがなくアリスタ・レコーズに移籍させます。手元に置いてしまえば、あとはこっちのもんだ。ロクなプロモーションもせず、自由なアーティスト活動を制限し、飼い殺してB級マニロウの命脈を絶ちました。これで本家マニロウは安泰じゃ。めでたしめでたし。

 というのがクライヴ・デイヴィス性悪説に基づく私の推測です。クライヴさんごめんなさい。
 ともあれこのアルバムを最後に、クニコは音楽界から消えました。それがクライヴの圧力によるものなのか否か、気になるところではあります。事情をご存知の方はお教え下さい。

 さて本作、マニロウの二番煎じ云々に目をつぶると、なかなか聴きごたえのある良作です。
 単にレーベル移籍のつじつま合わせとしてこのアルバムが作られたのだとしたら、ここまできちんと仕事をする必要はなかったのではないのか。やっつけ仕事の、でたらめなアルバムをこさえた方が、クニコの息の根を止めるのに都合がよかったのではないか。

 上述の仮説に対する大いなる疑問です。しかしクライヴはレコード・ビジネスを知り尽くした人。身銭を切ってレコードを買う市井の人々を、裏切ることはできなかったのでしょう。アルバムを出す以上は、決して手抜きしない。それがたとえ、アーティストを飼い殺すためであっても。

 だからアリスタ本気の制作陣です。プロデューサーはヴィニ・ポンシア。というわけで、手兵のメリサ・マンチェスターと彼女の伴奏陣がそのまま参加しています。バック・コーラスにはファラガー兄弟もいますな。

 クレジットを見ておやっと思ったのは、ジム・マンデルがキーボードを弾いていること。彼の名前を他のレコードで見かけることは滅多にありません。かなり稀有ですよ。
★★★

Produced by Vini Poncia

Original Recording Dates: Summer 1975 - Fall 1976
Sound Reproduction: Ron Hitchcock
Additional Recording: Bob Schaper
Production Coordinator: Anne Streer
Recording in Hollywood, Calif. at Producer's Workshop (Basic Tracks), Sound Labs, Inc. and Mama Jo's (North Hollywood)
B3 Recorded at Fidelity Recording, Studio City, Calif. by Andy Morris and Joel Soifer and Was Co-Produced by Gino Cunico
Mastered at The Mastering Lab / Ron Hitchcock
A Ripp Arthur Resources Production
Management: Irwin Mazur

Keyboards: Stanley Schwartz, Jim Mandell, James Newton Howard, Kevin Crossly
Guitars: David Wolfert, Johnny Vastano, Caleb Quaye
Bass: Cooker Lo Presti, Gene Kurtz (B3)
Drums: Kirk Bruner, Gerry Reba, Jim Keltner
Percussion: Lenny Castro
Horns: Tom Saviano (Saxophone - All Sax Solos), Rich Felts (Trumpets), Doug Wintz (Trombone)
Flute: Stanley Schwartz
Backing Vocals: Vini Poncia, Melissa Manchester, The Faragher Bros., Brie Howard, Wendy Haas, Joe Bean, Paul Nauman, Gino Cunico
Horns Arrangements by Tom Saviano
Strings Arranged and Conducted by Barry Fasman

Photography by Ed Caraeff
Designed by Howard Fritzson
Art Direction by Bob Heimall

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