2018/06/17

Herbie Mann / Discotheque ('76)

ハービー・マン / ディスコテック
A1Hi-jack
ハイ・ジャック
B1I Can't Turn You Loose
お前をはなさない
A2Pick Up the Pieces
ピック・アップ・ザ・ピーセズ
B2I Won't Last a Day Without You
愛は夢の中に
A3Lady Marmalade
レディ・マーマレード
B3High Above the Andes
アンデスの空高く
A4Mediterranean
メディタレイニアン
B4Bird of Beauty
美の鳥
B5Guava Jelly
グァヴァ・ジェリー
 昔も今も、私にとって中古レコードを買うことは無上の喜びに変わりはありません。しかし、買い方の姿勢は、歳月を経てずいぶんと変わってしまったのだなと、久しぶりに本作を手にして、感慨にふけってしまいました。

 今の私は、中古レコードをお店で漁りながら、「いかに地雷を踏まないか」にたいへん気を配ります。エサ箱に気になるレコードを見つけたら手にとって、ジャケットやその裏をじっくりと見つめ、そしてホンの少しでも地雷の予感がしたら、買わずにエサ箱に戻してしまうのです。
 これによって名盤・良盤を買い損ねた機会損失はおそらくかなりの頻度ではないかと訝りつつ、それでも「地雷を踏みたくない」という気持ちが先に立ってしまいます。それが今の私。

 ところが昔は、そんなの関係ない。バカスカ買っていました。地雷覚悟で。それどころか、地雷さんいらっしゃーい、というくらいの気概さえあったのです。
 もちろん、踏みまくりましたよ。たくさんの地雷を。
 それでよかったのです。後悔していません。当時は地雷を踏むことさえ、楽しかったのです。昔の私には、そんな余裕があったのでした。

 バカスカ買っていた頃というのは、今よりも景気がよかった。
 バブルはすでにはじけていましたが、人々の多くは「まあそのうち何とかなんべ」と楽観していました。たくさんお金を浪費しても、がんばって稼いで取り戻すぞ!という明日を生きる活力にさえなったのでした。
 そういう経済的な時代背景をして、私にバカスカ買わせたのだ、と言いかえることもできます。

 時は流れ、私も、世間も変わってしまいました。
 当時と比べものにならないほど、経済的に深刻な状況です。500円とか、せいぜい1,000円の中古レコードを買うのに、地雷を踏まないよう細心の注意を払う自分のセコさがイヤでイヤでたまりません。
 衝動のままにバカスカ買おうとすると、浪費を諌めるもうひとりの自分が、やれ失業だ、年金だ、健康保険だ、増税だ、などと将来に不安を感じさせるようなことを耳元でささやくのです。
 500円のレコードさえ、買うのをためらってしまいます。

 たったの500円をケチったところで、将来が安泰になるわけがない。
 それはわかっているのですが、ケチらないと不安。
 しかも困ったことに、ケチっても不安なのです。そこで果てしなくケチり続けることになります。

 このケチケチ・マインドはもはや私だけでなく、今や日本国民全体に蔓延し、誰にも止められません。ケチケチ・スパイラルの怪獣は日々巨大化し、この国を踏み荒らし、コテンパンに破壊するでしょう。
 どこかで不安の連鎖を断ち切らないと。

 どうしたらよいのでしょう?
 うーん難しいですね。久しぶりに難しいことを考えたので、アタマからけぶりが出そうです。自分にできそうなことをあれこれ考えたら、やっぱりバカスカ買うことしかないのかなと。

 今日はどうしてこういう話を長々としたかというと、ハービー・マンのこのアルバム、昔、めっちゃくっちゃにバカスカ買っていた時期に買ったものなんですよね。
 ハービー・マンのディスコもの、という、今の私なら地雷センサーが作動して、まず買わなさそうなシロモノ。
 買った当時は1回かそこら聴いて、地雷確定。「またつまらぬものを買ってしまった」と斬鉄剣な気分です。それから20数年、本作は押入れの奥底で眠り続けることになるのでした。

 大掃除のときに出土して、聴いてみたら、これがいい。ちっとも地雷じゃない。じっくり聴いて、よさがわかりました。
 B4「美の鳥」はスティーヴィーのオリジナルより、ちょっぴりせっかちなテンポ。ふたりのグレート・トロンボニスト、バリー・ロジャーズとサム・バーティスが絡みに絡み合ったサビの盛り上がること。
★★★

Herbie Mann: Flutes
Pat Rebillot: Keyboards
Steve Gadd: Drums
Tony Levin: Bass
Jerry Friedman, Hugh McCracken & Bob Mann: Guitars
Ralph MacDonald, Armen Halburian, Ray Barretto & Ray Mantilla: Percussion
Barry Rogers & Sam Burtis: Trombones
Guitar Solos on A3, A4 & B3 by Bobb Mann
Background Vocals: Cissy Houston, Sylvia Shemwell & Eunice Peterson
Background Voices on B5 by The Pina Colada Choir

Arranged and Conducted by Pat Rebillot

Recorded at Atlantic Recording Studios, New York, New York
Recording Engineer: Jimmy Douglass

Design & Art Direction: Paula Bisacca
Photography: Robert Monroe
Type Illustration: Richard Hernandez

Produced by Herbie Mann

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