2024/05/05

Teddy Wilson / Striding After Fats ('74)

A1Striding After FatsB1Zonky
A2Blue Turning Grey Over YouB2Black and Blue
A3Ain't Cha GladB3Handful of Keys
A4Blues for Thomas WallerB4Ain't Misbehavin'
A5I've Got a Feeling I'm FallingB5Squeeze Me
B6Honeysuckle Rose
 このジャケットを見た瞬間、手に取った瞬間に「ああ、これはリイシューだな」とわかっちゃいました。それくらい、色が狂っています。
 右下の黒、ピアノの側面です。これが黒なのに黒くない。白っちゃけています。ひどい仕事しよる。こりゃハネケンさんに怒られるぞ。

 かような現象はリイシューの世界にわりとありがちで、黒が主体のジャケットを焼き直すと、だらしない黒になります。黒が死ぬのです。
 どうしてこうなるのかな。オリジナルのフィルムが退色しちゃったのか。あるいは、そもそも貸してもらえなかったのか。

 こんなジャケットで売り出してしまうんだもん、ロクなリイシューではなさそう。音の方は大丈夫なんかいな?
 そんな不安を抱きつつも、買ってしまうんですよこれが。だって安いんだもん。

 名ピアニスト、テディ・ウィルソンによる、ファッツ・ウォーラーのトリビュート・アルバム。

 ファッツ・ウォーラーは、偉大な音楽家です。
 しかし終戦前(1943年)に亡くなってしまったので、その素晴らしい音楽世界が現代に語り継がれることはほとんどありません。例えばディオゲネスのように、ああ、名前くらいは知ってる、でも何した人なんだっけ、そんな程度の存在です。

 たとえ一般的な知名度はささやかであっても、一部のミュージシャンに及んだファッツの影響力は絶大にして圧倒的です。このテディ・ウィルソンも、ファッツに染まったひとり。
 本作のタイトルは、ファッツのピアノ・スタイルであるストライド、そこにファッツへの憧憬を揉み込んだダブル・ミーニングです。

 内容は、どうにも面白くありません。「お前、本当にファッツのこと好きなのかよ」とテディ・ウィルソンを伝説の樹に呼び出して問い詰めたくなるような出来。まさかテディ、この企画に乗り気じゃなかった?

 ファッツの元ネタにあった陽性の楽しさがなくて、全編、何だか陰気なんですよね。
 泉下のファッツが本作を聴いても、あんまり嬉しくないと思う。

 ジャズメンは真面目にプレイしなければいけない、おちゃらけてはダメ、そんな不文律がこの時代、まかり通っていたのかもしれません。本作は欧州のレーベルなので、なおのこと。
 大衆芸能としてのジャズを生き抜いたテディも、ヨーロッパの人々に高尚な音楽家として認めて欲しかったのでしょうか。

 テディの本懐がどこにあろうとも、ガスだけ先に出尽くしてしまったヒゲ剃りスプレーのような本作では、ファッツのファンにゃとてもオススメできません。ファッツのオリジナル音源を聴く方がよほどハッピーになれますよ。

 おまけにオーディオ的なところでも本作、ピリッとしない。
 ピアノって本来、強弱の甚だしい楽器ですよね。ピアノという楽器名もそこに由来するわけで。でも本作、強弱に乏しくて、何とも平べったい音です。
 ただしこれについては、リイシューの際に音がヘボくなったちゃった、てなこともあり得ます。欧州原盤だったら、もちっとまともな音質である可能性は否めません。

 さて、私にとってのテディ・ウィルソン原体験は、たまたまラジオから流れてきた「プリズナー・オブ・ラヴ」です。レスター・ヤングとテディが共演したヴァーヴのあれね。彼のピアノ・ソロ、あまりの歌心にドキュンドキュンバキュンバキュンでした。
 そういう演奏のできる人だから、どれだけ失望しようとも、彼のピアノを聴きたい気持ちが萎びることはありません。
 だからこれからもきっと、彼のレコードを買うことでしょう。安ければ。
★★★

A BLACK LION Recording
Produced by Stanley Dance
Album Produced by Alan Bates
Recorded at Hank O'Neal Studios, New York City
28th January 1974 (A2, A3, A5, B1, B2, B4, B5)
31st January 1974 (A1, A4, B3, B6)
Recording Engineer: Fred Miller
Sleeve Photograph: David Redfern
Sleeve Design: Hamish Grimes

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