2022/11/21

Ricci Martin / Beached ('77)

A1Stop Look AroundB1Spark of Me
A2MoonbeamsB2My Old Radio
A3Belle of the BallB3Precious Love
A4Everybody Knows My NameB4I Don't Like It
A5Streets of LoveB5I Had a Dream
B6Here I Go Again
 まず、beachが動詞であることを、本タイトルではじめて知りました。
 意味はまったく予想通りで、浜に上がる(自動詞)浜に上げる(他動詞)だそうな。

 それで思い浮かべたのが、ときどきニュース映像で見かける、迷い込んで浜に上がってしまい、動けなくなってしまったイルカ。

 近隣住民や動物愛護団体のみなさんが迷子のイルカを取り囲んで、何とかして沖に連れ出そうとします。
 しかし体力を消耗したイルカは、なかなか自力で動けません。水深がないので、うまく泳げないのです。イルカが乾燥しないよう、バケツで水をかけたりするものの、だんだん弱っていきます。はたしてイルカは、沖で待つ家族の元へと帰れるのでしょうか。

 このアルバムも、まあ似たようなものとお思い下さい。

 自力で音楽界を泳ぐだけの力がないリッチ・マーティンを、ビーチ・ボーイズやシカゴの面々が取り囲んで、何とかして音楽界の荒波へと連れ出そうとしているのです。

 悲しいかな、リッチ・マーティンには音楽的才能がからっきしありません。でもこのアルバムは、だからこそ成り立っているのです。
 イルカを死なせてはならない!と心をひとつにがんばった近隣住民や動物愛護団体のみなさんと同じように、本作において仲間たちがどれだけ奮励したことか。それがいちばんの聴きどころですから。

 A4の曲名"Everybody Knows My Name"に、リスナーの多くは「誰だよお前、知らねえよ」とツッコんでしまったことでしょう。
 さてこのイルカ、リッチ・マーティンとはいったい何者なのでしょうか。
 写真の彼は、見るからにチンポ使い込んでそうな顔しています。それもその筈、何とこの若造、ディーン・マーティンの息子なんですな。ザッツ・アモーレ。
 なるほど、周囲の人々が彼を泳がせようと懸命になった理由が、ちょっぴりわかったような気がします。

 ポンコツ歌手のアルバムを、どうにかこうにか商業的水準ギリギリのところまで押し上げようとする伴奏ミュージシャンやスタッフの、涙ぐましいハリボテ工作の結晶。レコード・ビジネスの職人魂が横溢しています。こうした関係者のサポートもあって、本作はかろうじて、店頭に並べられる内容となりました。

 全曲、リッチの自作曲。いずれも心に残らない、平べったい曲ばっかりです。取り囲んだ人々も、こればっかりはどうしようもなかったのでしょうなあ。いくらカラフルなサウンドで飾り立てても、曲がパッとしないので生彩を欠いた出来になってしもた。

 惜しい。もったいない。
 もしも素敵なメロディ満載だったら、世間に数多あるビーチ・ボーイズ焼き直し作品の、上位に食い込めたことでしょう。あーあ。

 残念なアルバム。しかしハリボテ工作に携わったパーソネルの、音楽的実力については疑う余地ありません。ケチのつけようがない。本作の価値は、まさしくそこにあります。

 関わったたくさんの人々の尽力、そのおかげで、リッチ・マーティンはめでたく、音楽界の大洋へと旅立つことができたのです。そして間もなく消息を絶ちました。
★★★

Produced by Carl Wilson and Billy Hinsche
All Songs Written by Ricci Martin Except A4 by Ricci Martin and Carl Wilson

Recorded at Brother Studio, Santa Monica, California
Engineers: Earle Mankey, Stephen Moffitt
Mastered by Stephen Moffitt and Steve Guy at Location Recorders, Burbank, California

Piano: Ricci Martin
Bass: Wayne Tweed
Drums: Ricky Fataar, Dennis Wilson, Ed Teduri, Ricci Martin
Guitar: Jimmy McCullough, Steve Rose, Ed Carter, Billy Hinsche, Carl Wilson
Percussion: Bobby Figueroa, Chili Charles
Organ: Carly Munos
Synthesizer: Billy Hinsche, Van Dyke Parks
Mellotron: Carl Wilson
Background Vocals: Peter Cetera, Gerry Beckley, Bobby Figueroa, Billy Hinsche, Carl Wilson, Ricci Martin
Brass: James Pankow, Walter Parazaider, Lee Loughnane
Orchestration: Elmo Peeler

Design: Roger Carpenter, Ricci Martin
Photography: Fred Valentine
Photo of Ricci: Sandy Iwataki

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