2022/02/19

Clint Holmes / Playground in My Mind ('73)

A1Playground in My MindB1Neither One of Us
A2Killing Me Softly With His SongB2Like the Fellow Once Said
A3What Will My Mary SayB3Come Hell or High Water
A4Me and AmericaB4Miss Lady Loretta
A5There's No Future in My FutureB5Sneaking Around Corners
 毒のないポップス。
 このテのアルバムを語る際、ついつい、そういう表現をしてしまいます。でも、毒のないポップスって、いったい何だ?

 ロック・ミュージックの反骨精神や叫びなどなく、また、ソウル・ミュージックの躍動も体臭もない。そういう音楽を、いつしか私は「毒のないポップス」と称するに至っていたようです。

「毒のないポップス」という呼び方自体、かすかな毒気が漂っているような。でもべつだん、けなしているわけではなくて、こういう音楽、いいと思います。好きですよ。
 すんなり入っていける敷居の低さと、音楽性の高さ、豊かさをあわせ持つ、20世紀ポピュラー音楽の果実です。

 具体例を挙げるなら、カーペンターズが代表選手かなあ。あとはアンディ・ウィリアムスやペリー・コモ。インストならパーシー・フェイスやポール・モーリア。そのへんの作品群。白人中産階級をターゲットに制作された、イージー・リスニングやミドル・オブ・ザ・ロードなどと括られるジャンルですかね。

 なおこのジャンル、お財布にとてもやさしい。
 ロックやソウルの「とんがった」アルバムが高値を招きがちな中古レコードの市場において、毒のないポップスどもは安値でゴロゴロ転がっています。
 まるでおからやもやしのごとき、栄養豊富な貧乏人の友といったところ。そういうところも好きだなあ。

 というわけで本作、まさにそういうアルバムです。
 ゴージャスな伴奏が盛り立てる、男気いっぱいのヴォーカルを存分に楽しめます。

 数多のカバーがあるB1。まあ誰が歌っても、それなりに仕上がってしまう名曲ですよね。
 クリント・ホームズはじっくり歌い上げます。のっぴきならない男女関係の苦味をこらえながら、それでも何とか前向きになろうともがく歌詞の主役になりきっているのです。

「毒のないポップス」の歌い手たちは、歌詞をとても大切に歌っている人が多い。ていねいに発音します。カーペンターズなんか英語の授業によく使われたりしますよね。
 本作も例外ではありません。クリント・ホームズはひとつひとつの単語をきちんと、誠実にメロディに乗せて運びます。それもあってかこの人、黒人ヴォーカリスト特有のアクやコクは希薄です。そっち方面を期待する向きには、あまりオススメできないアルバムと言えましょう。
★★★

Produced by Paul J. Vance and Lee Pockriss

Arranged by
Jimmy Wisner (A1, A5)
Larry Muhoberac (A4, B3, B4, B5)
Al Capps (A2, A3, B1, B2)

Engineered by
Bob Hughs, Record Plant
Eddie Abner, Hollywood Sound
Stan Tonkel, CBS

Photographed by Tyler Thornton

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