2018/07/16

Spyro Gyra / Incognito ('82)

スパイロ・ジャイラ / 遙かなるサンフアン
A1Last Exit
ラスト・イグジット
B1Oasis
オアシス
A2Old San Juan
遙かなるサンフアン
B2Incognito
インコグニトゥ
A3Harbor Nights
ハーバー・ナイツ
B3Sueno
スエーニョ(夢)
A4Stripes
ストライプス
B4Soho Mojo
ソーホー・モージョ
 ホーン・セクションのメンバーが総入れ替えとなり、ジェリー・ヘイと彼の臣下で埋め尽くされました。
 顔ぶれはほとんどシーウィンド・ホーンズです。彼らは本拠地ロサンゼルスを離れず、地元のスタジオで自分らのパートを録音したテープをニューヨークに送って任務完了。
 バッファローのローカル・バンドだったスパイロ・ジャイラも、ここに至って大陸横断の壮大なプロジェクトになってしまったわけです。

 今回も、ニューヨークの腕利きミュージシャンを大量動員し、ほぼ全ての曲でマーカス・ミラーがベースを弾き、全ての曲でスティーヴ・ガッドがドラムを叩きます。もはやグループの体をなしておりません。
 かつてのスパイロ・ジャイラらしいさわやかさが薄れ、切れ味鋭い、ハードな音が目立つようになります。

 ドラマティックな構成のA2や、妙にテンパった雰囲気のB2など、デビュー当初とは、明らかに違うサウンドを指向しています。くつろぎ系の曲B3でさえ、ギター・ソロにえらく緊迫感が漂っているのです。

 彼らの変節はジャケット・デザインにも反映されたようで、今までスパイロの視覚的イメージに多大なる貢献をしてきたイラストレーター、デヴィッド・ヘッファーナンの起用を見送りました。
 ジャケット中央で猫背になっている、色のない男。彼は何者なのか。なぜ色がないのか。

 謎を解くカギは、タイトルにあります。原題の"Incognito"は、「お忍び」という意味です。
 水戸黄門が身分を隠して諸国を旅したり、暴れん坊将軍が新さんになって江戸の町をふらふらしたり、そういうやつね。時代劇マニアでもあるまいし、彼らがこのようなタイトルをつけた理由はいったいどこにあるのでしょう。

 おそらく、一度定着してしまったスパイロのイメージを、リセットしたかったからではないかと、私は考えます。
 さきの副将軍という肩書を秘匿して市井に溶け込んだご隠居はとても生き生きと、楽しそうですよね。宿屋のおかみさんに叱られたりして。
 ところが身分がバレてしまえば、おかみさんは土下座するしかない。

 人気グループに成長してしまったスパイロ・ジャイラとリスナーの関係は、まさにこれです。
 われわれリスナーは、今、流れているこの音楽が、スパイロ・ジャイラであることを知ってしまっているのです。宿屋のおかみさんが軽口を叩くような匿名性は、とっくの昔に失われてしまいました。

 スパイロがこのアルバムで突き崩しにかかったのは、おそらくこの部分ではないかと。
 さわやかフュージョンの第一線を長らく生き抜いた彼らは、世間が勝手に自分たちに貼ったラベルを、びりびりに破ってちぎって捨てたかったのかもしれません。
「いつまでもさわやかフュージョンやってられっかよ!」マンネリズムに陥り、移り気なリスナーに飽きられる前に、さっさと路線変更してモーニング・ダンスなイメージを払拭したい、そう思ったとしても不思議ではありません。

 スパイロ・ジャイラの音楽、という「色付け」の拒否、これが色のない男の正体だと、私は思うのです。
★★★

Produced by Jay Beckenstein and Richard Calandra for Crosseyed Bear Productions
Assistant Producer: Jeremy Wall
Engineered by Michael Barry

Horn Section
Jerry Hey: Trumpet & Flugelhorn
Gary Grant: Trumpet & Flugelhorn
Tom Scott: Saxophone & Flute
Larry Williams: Saxophone & Flute
Bill Reichenbach: Trombone
Horns Arrangements by Jerry Hey Except B1 Arranged by Jeremy Wall

String Section: Harry Lookofsky (Concertmaster), Jonathan Abramowitz, Frederick Buldrini, Peter Dimitriades, Lewis Eley, Regis Iandioris, Harold Kohon, Jesse Levy, Guy Lumia, Marvin Morgenstern, Matthew Raimondi, Richard Yound
Strings Arranged by Jeremy Wall

Recorded at Secret Sound Studio, New York City, New York
Engineer: Michael Barry
Assistant Engineers: Josiah Gluck, Nina Siff, Debbie Rebhun
Additional Recording at Oceanway Studios, Hollywood, California
Engineer: Michael Barry
Assistant Engineer: Steve Crimmel
Mixed at Bear Tracks
Engineers: Michael Barry & Larry Swist
Mastered at Masterdisk by Bob Ludwig

Cover Illustration: Michael G. Cobb / Radiomayonnaise Productions
Art Direction: George Osaki

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